
求人は減ったのか。それとも選ばれる人材が変わったのか。|2026年夏、ニューヨークの飲食業界で起きていること
「アメリカの景気が悪くなっている」「ニューヨークのレストランは厳しいらしい」。
こうした話を耳にして、今は海外就職を目指すタイミングではないのでは、と考える方もいるかもしれません。
確かに、2026年前半のレストラン業界は順調一辺倒ではありませんでした。客足にはばらつきがあり、食材費や人件費も高い水準が続いています。一方で、外食への消費そのものが大きく崩れているわけでもありません。
この記事のサムネイルにも使っていますShaver Hallという沢山の人気レストランが入ったフードホールはこの夏オープンしてから沢山の人を集め注目されています。
今の状況を「好調」か「不調」かの二択で説明するのは難しいでしょう。ニューヨークの採用現場で起きているのは、求人が一斉になくなるような変化ではなく、店側が以前より慎重に人材を選ぶようになった、という変化です。
ニューヨークの飲食業雇用は、ほぼ横ばい
ニューヨーク市会計監査官が2026年7月に発表したレポートによると、市内の宿泊・飲食サービス業の雇用者数は、2026年5月時点で約36万700人でした。前年同月も約36万700人で、1年間の変化はほぼありません。
直近1か月では約400人減少していますが、3か月で見ると約1,100人増えています。大きく伸びているわけではない一方、業界全体が急速に縮小しているとも言いにくい数字です。
ニューヨーク市全体の経済についても、同レポートは主要指標の多くに大きな動きがない状態としています。飲食業も、拡大局面というより、ほぼ横ばいの中で推移していると見る方が実態に近そうです。
売上は伸びても、客数と利益は別の話
全米の飲食店売上は、2026年6月に季節調整済みで1,025億ドルとなり、直近5か月のうち4か月で増加しました。
ただし、売上が増えているからといって、すべてのレストランの経営が楽になっているわけではありません。
National Restaurant Associationは、2026年のレストラン・フードサービス売上が前年比4.3%増えると予測していますが、物価変動を除いた実質成長率は0.8%にとどまるとしています。売上の伸びには、メニュー価格の上昇も含まれているからです。
実際、2026年5月には、既存店売上が前年を上回ったと回答した事業者が50%だった一方、客数が前年を下回ったと答えた事業者は45%に達しました。売上は維持できても、来店客数は弱いという店が少なくないことが分かります。
また、食材費と人件費は、それぞれ平均して売上1ドルあたり約33セントを占めるとされています。コストが高い状態では、売上の増加がそのまま利益の増加につながるとは限りません。
採用は止まったのではなく、慎重になっている
全米の飲食店では、2026年6月に約3万2,900人分の雇用が減少しました。4月と5月の増加数も当初の発表から下方修正され、2026年前半の採用は不安定な動きとなっています。
ただし、National Restaurant Associationは、短期間の増減だけで結論を出すべきではないとしています。同団体の評価は、飲食業の雇用が緩やかな拡大局面にあり、今後も各店舗が営業状況に合わせて人員を調整していくというものです。
この見方は、KIWAMIが採用現場で感じている変化とも重なります。
レストランからの求人相談がなくなったわけではありません。しかし、「急いで何人も採りたい」という依頼よりも、「経験が合う人がいれば会いたい」「時間がかかっても、任せられる人を採りたい」という相談が目立つようになっています。
採用そのものを止めるというより、一人を採用する判断が重くなっているのです。
日本食レストランでは、経験者の採用が続いている
ここからは、公的統計ではなく、KIWAMIが取り扱っている求人を通じて見えている範囲の話です。
2026年に入ってからも、ニューヨークの寿司店、和食店、ファインダイニング、新規開業を予定するレストランから、採用の相談が続いています。特に求められているのは、寿司や和食の実務経験があり、仕込みから営業までを安定して任せられる人材です。
一方で、採用基準は以前より明確になっています。
寿司を握った経験があるというだけではなく、魚の仕込みをどこまで任せられるか、カウンターで接客できるか、チームを指導できるか、原価やオペレーションへの理解があるか。給与が高いポジションほど、店側が確認する範囲も広くなっています。
これは「日本食業界だけが景気の影響を受けていない」という意味ではありません。日本食レストランも、客数やコスト、人材確保といった共通の課題を抱えています。
それでも、料理人の技術が店の体験や評価に直接つながる業態では、経験者を採用する必要が残ります。KIWAMIに寄せられる求人を見る限り、その需要が消えたとは感じられません。
海外就職では、店の中身を見極めることが重要になる
2026年夏のニューヨーク飲食業界は、急速に縮小しているわけではありません。しかし、売上、客数、利益、雇用がすべて同じ方向へ動いているわけでもなく、店による差が見えやすくなっています。
海外就職を考える際も、「ニューヨークの景気が良いか、悪いか」という大きな判断だけでは足りません。
採用理由は何か。欠員補充なのか、新規出店なのか。給与のほかに福利厚生やビザサポートはあるのか。どのような客層を持ち、どのようなチームを作ろうとしているのか。
求人票の条件だけではなく、店が人材を採用する背景まで見る必要があります。
まとめ
ニューヨーク市の宿泊・飲食サービス業の雇用は、前年とほぼ同じ水準を維持しています。全米の飲食店売上も増加していますが、客数は安定せず、食材費や人件費が利益を圧迫する状況が続いています。
そのため、採用は以前より慎重です。
一方で、KIWAMIが扱う日本食レストランの求人では、寿司や和食の経験者を求める動きが現在も続いています。求人が一律に消えたのではなく、店が採用する人材の条件を、より厳密に見るようになったと考える方が自然でしょう。
今のニューヨークは、誰にとっても簡単に仕事が見つかる市場ではありません。
しかし、店が必要とする経験や技術を持ち、その価値をきちんと伝えられる料理人には、現在も採用の機会があります。
参考資料
New York City Comptroller
New York by the Numbers: Monthly Economic and Fiscal Outlook No. 115 — July 2026
National Restaurant Association
Total Restaurant Industry Sales — July 16, 2026
National Restaurant Association
Total Restaurant Industry Jobs — July 2, 2026
National Restaurant Association
Same-Store Sales and Customer Traffic — June 29, 2026
National Restaurant Association
Restaurants Remain Resilient Despite Challenging Business Conditions — July 22, 2026









